GRJ日記

サイトの日記代わりです。やや古いマンガやや古いアニメやや古い特撮(略)大好き。

日本沈没のサイコパス

日本が沈むくらいのものすごいサイコパスという意味ではありません。前に何回か、大昔やったテレビドラマの『日本沈没』について話をしたのですが、それに出てくるとあるキャラクターの話です。
サイコパスは猟奇殺人を犯す人という意味ではなくて、社会人として精神に問題のある人で、どこにでも居て社会的にはまあ成功しているくらいで、極めて利己的で自分の利益になるためなら他人を平気で踏み台にする。息をするように嘘をつく。その結果、自分にとって不利益な他人を、その後で逮捕されなくて済む手筈などが整ってさえいるなら、ためらいなく抹殺する、こともある。その面が強調されて広まっている。でも猟奇殺人ものの映像を観るよりもむしろ日常生活の中で、犯罪に手を染めずすぐ隣で暮らしている人の中に、「え?」と思うような面を見出す方が遥かに怖いですね。リアルの持つ怖さ。
それでだ。
田所博士は小野寺の操縦する潜水艇で海底の調査をするうち、近々小笠原の南ケ島が沈むことを突き止める。島の若い衆は皆本土へ行ってしまって、150人ばかりの老人や子供らが生活している。
小野寺は一刻も早く村人らにこの島が沈むことを伝え、逃がしたらいいのにと思うが、田所は絶対に喋るなと言う。自分は過去においてパニック状態になった時の人間の弱さ、醜さをイヤというほど見てきている。とにかく喋るなと。だが「この島の人たちを一人だって死なせたくない」と願い焦る小野寺はやきもきして、村の小学校に東京から赴任してきている教師に打ち明けてしまう。まだ若いのに僻地教育に力を入れ、この島での教育に一生を捧げる気だという青年教師は、頼もしくうなずいて「よく言ってくれました、協力させて下さい」と言ってくれる。小野寺は一安心。
だが翌朝、田所と小野寺が宿を借りている教師の家に石が投げ込まれる。外へ出ると老人たちが手に手に鋤やら鍬やら持って取り囲み「なぜ島が沈むなんて出鱈目を抜かした。承知しねえぞ」と剣呑な雰囲気。そこへ船のエンジン音がして、崖から見下ろすと、港から一艘の船が出て行くところであった。そこにはあの若い教師が乗っていて、こちらに気付くと満面の笑顔で手を振り、「小野寺さーん。後は宜しくお願いしまーす」と叫ぶ。何度も叫ぶ。
小野寺は呆然として「逃げた、自分だけ」と呟く。
この若い教師が私の知ってる中で最強のサイコパスだと思います。下手な殺人鬼よりよっぽどいっちゃってる。
僻地に教育者として赴任し働いている自分について、いかにも謙遜した口調で自己紹介しているんだけど、内心では自分ってなんて偉いんだと思っているのが、逃げた後ほったらかしにされ自習になった子供らが教師の真似をしている姿から、はっきりくっきり見えてくる。「えっへん。先生は東京からわざわざ君たちのためにこんな田舎の島にきているんだぞ」「タイチ、うまーい」「こらこら、騒ぐと先生は東京へ帰ってしまうからな」「似てるー」あはははは。その目の鋭さよ。そのくせ、「先生はきっと帰ってくるんだ」なんて言ってる子供っぽさもあり、リアル過ぎて驚いた
船で逃げていく時こっちを見ている小野寺に対して手を振って向ける満面の笑顔。あれがすごい。この人をふんづかまえて罵ったところで、この人は自分がひどいことをしたなんて全く思ってない。ヒヒッうまいことやってやったぜ、ではない。そうだったらまだマシだったろう。もう、「サイコパスとは」の条件に全て当てはまりそうでした。あんな大昔に、こんなリアルな人間ドラマを作るって、すごいね。子役のお芝居とかじいさんたちの演技力とかは微笑ましい感じですが、そんなことはどうでもよろしい。
今回の話の主役っぽいタイチという子は、母親が出稼ぎに行っていて正月と秋まつりにしか戻ってこないのね。父親の話が一切出ないところを見ると片親なのかなと思われる。逃げている途中で、タイチは学校の中に忘れてきた母親の顔の絵を取りに戻り、学校と共に沈んでしまう。
波間に浮かぶタイチの絵と、タイチが母親に買ってもらったと自慢していた麦わら帽子を前に号泣する小野寺、その肩に手を置いて「今はまだ一枚だが、いずれ日本の沿岸に何千何万という絵が浮かぶだろう」と静かに言う田所博士。
そして、あの教師には一切何の報いもないのであった。思うでしょう普通。逃げて行った先で大波に遭って沈んじゃうとか。そういうのナシ。多分助かって東京に戻ったんじゃないでしょうか。それもすごいね。ドラマ内で報いを受けさせるのが常だと思うんですよ。でも物事はそう、それこそお話みたいにやったことの報いがさっさと来るものでもないのだ。
あの教師に「タイチはこういう経緯の果て、死にましたよ」と言ったら、多分悲しそうな顔をして、「残念です。助けてやりたかった」と、「心から」言うんだろうなあ。あー、むしゃくしゃする
「悪気がない」ってたち悪いな、と思う。真っ直ぐな目をして「だって、本当のことじゃない?」ウヘァ 悪気があって意地悪を言ってくる方がまだマシな気がする。そっちもイヤだけど。