GRJ日記

サイトの日記代わりです。やや古いマンガやや古いアニメやや古い特撮(略)大好き。

浮浪雲

といっても漫画の方ではありません。漫画も数回は読みましたが登場人物や舞台設定の概略くらいしか知らない。

1982年にアニメ映画になったそうで、そちらの話です。

幕末の江戸、品川宿の問屋のかしらをやっている雲という男が居て、すらりと背が高く色白の美丈夫、仕事は全部番頭にまかせっきりでふらふら出歩いて女を口説いて酒飲んで朝帰りばかりしている遊び人である。口癖は「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」まあ、美醜や若い老けてる関係なし、夜鷹でも茶店の小娘でも声をかけまくるところは筋の通った女好きである。

奥さんは「かめ」という名前でブタッ鼻、おおらかで心優しく、浮気しまくる旦那にもなんとも言わず、朝帰りしてから奥さんを寝所へ誘う旦那に「でも、お疲れなのでは?」と素で尋ねる天然さん。イヤミとか、我慢して絞り出すのではないところがミソですな。

息子は11歳の新之助くん。もう一人の主人公であろう。生真面目で不器用で真っ直ぐで、でも時々誘惑や堕落や卑怯な道に心揺れて、そんな自分に自己嫌悪する、至極まっとうな子。父親に対し「駄目な人だなあ」とあきれ、恥ずかしいと思いながらも、でも根底のところでは信じている。理想的ですね。

雲さんは好き勝手生きていて、息子のことも放置、放任していて、こうしろああしろ教育的指導は一切なしで、息子相手に将棋で勝負しても自分は平気でズルをして、息子が悔しくてはむかうとコテンパンにする。おとなげない。そして子供を相手に本気でボコボコにするんだけど、怒ってない。穏やかな表情で息子をどこまでも追いかけていって殴る。最後は見ている方が笑ってしまう。息子はそれどころじゃないけど。

その、「普段は全然親らしくなく好き勝手やっているけど、子が本当に助けを必要としているその瞬間、その場所には、きっちりと居て、手を差し伸べ助け上げてやる親の図」がキマっていて、見ていてスッキリしました。家出した息子、もう今更戻れない。真っ暗な闇の中泣きながら座っていると、遠くから馬の走る音が近づいてきて、朝日を逆光に馬上の父上が!の姿が本当に頼もしかった。観ているこちらも息子の心境で「ちちうぇええ~~~」でした。一日と一晩駆け通しに駆けて息子を追いかけて来てくれて、そこで「たんとお泣き」言ってくれる父上の大きさね。あれは将棋の駒事件の時にずーっと追いかけてきてぶちのめす姿と対になってるんだね。子供みたいに追っかけてきてポカスカ殴る姿と、帰れないでいる息子を迎えにきてやるおとなの姿の両方ね。

その、いつもは昼行燈や好き勝手やってるフラフラ野郎でも、ここぞというところで、というその一点が、私にはわからないままである。ちゃんとした人にはわかるんだろうか。

息子の成長も、この物語の大きな柱であるんですけれども、雲と新之助がそれぞれ別の場面で出会う坂本竜馬が、良かった。雲とふたりで背中合わせに立って新撰組相手にやりあうところ、とてもすてきだった。そう、雲さんは長ぁーい仕込み刀を棒術のようにぶん回して戦うんですけど、アクションは本当にかっこよかったです。雲さんの命を狙う新撰組の若者との初戦、二度目、決戦、決着のつけ方も鮮やかで、ほれぼれしました。竜馬が暗殺されるシーンだけ、誰だかが専属で考えて動かしたというのを聞いたことがありますが、すごく迫力があって、無残で、心に残りました。

新之助が、あの大好きだった坂本竜馬が暗殺されたと知って、あんなふうに乱れて傷ついて苦しむのはよくわかるし、観ているこちらが救われる。そして、雲さんが、そうと知って、ただ黙って受け入れたのだろうな、泣いたりつらがったりしないで、彼の生き方のように、ただすべてを受け入れて、のみこんだのだろうなと想像できました。

あと背景がとにかくきれい。そこに乗ってくる人物の絵も含めて、日本画がそのままアニメになったようです。コンピューター処理の昨今のアニメでは絶対に出せない良さがありました。

そして声。やましろしんごが雲を演じていて、上手だった。時々俳優にアニメの主役をやらせることがあって、上手な人と下手な人がいますが、やましろしんごは上手だった。演技力というよりは、雰囲気、味わい、こういう時にこういうセリフを「どんなふうに」言うのかって辺りが、ちゃんとわかっていた。やましろしんご自体はあまり良い人ではないとか、そのせいで老後は孤独だったというのを聞いたことがありますが、まあ別に私はやましろしんごに恨みはないので、この役は上手かったときっぱり言います。あと奥さんのかめさんがくまがいまみでしたが、こちらもよかった。独特の色気があって、でもおおらかで温かくもあるという声で、この役に合っていた。若い人はくまがいまみを知らないかな。まつだゆうさくの奥さんの姉さんです。若い人にはまつだりゅうへい&しょうたの伯母さんですと言う方が良いのか。

しかしなあ、坂本竜馬って、33で暗殺されたんだなあ。33だよ。すごいよね。たったの33で死ぬまで、あれだけの人生を送ったんだと思うと、自分が恥ずかしくなる。自分は未だにその「ここぞというところ」がわからないままだというのに。

良い作品です。一時間半、時間が空いていたら、是非一度観て欲しい。