GRJ日記

サイトの日記代わりです。やや古いマンガやや古いアニメやや古い特撮(略)大好き。

聖の青春 映画版

観てきました。

ネタバレするので内容を知りたくない方はお気をつけ下さい。

あとものすごく長くなるのですみません。

最初にこの映画の存在を知ったのは映画館にあった予告チラシでした。目に留まった瞬間から何故か非常に観たいと思った。多分松ケンさんの表情の威力だろう。

映画を観る前に原作を読まなければと思って図書館で原作本を借り、礼儀として将棋のルールを勉強してみましたがすみませんさっぱり覚えられませんでした。駒の動かし方を覚えるのすら大変。その他にも細かい決まりごとが沢山あって、私では試合以前に置けない場所に駒を置きそうな予感満載です。関係ないですが昔チェスを教わったことがあって、王様の周囲の部下たちに「行け!蹴散らせ!」でワーと出ていって、王様「よし、ではわし自ら出向くか」ゆったりと一歩前に出たらどこからかやってきた敵にぶすっとやられて開始5分で終わった思い出があります。部下たち後ろ振り返って「えっ」あれだね、こういうゲームはせっかちには向かないね。

原作は完全なるノンフィクションで、村山聖の一生を丹念に追っています。何かの賞をとりました。読んでみて、小難しい言い回しとか、奇をてらった表現などは無く率直で平明な文章で、それから作者からの村山聖への愛情と哀悼の眼差しに満ちていて、良い本だと感じました。賞を取るのもむべなるかな。

で、この原作に感動した!という人は映画になった作品を観て、あまり良い感想を持たないらしい。まあそれはわかる気がします。この原作本を愛している人はまず絶対に将棋が好きな人でしょう。でなければ読まない本だし。私のような方向から近づいてきた人間でもなければ。

将棋を愛し、村山聖という将棋指しを愛し、将棋の光と影に魅了された人たちにとっては、やはり、「実際にあった事と違う」のは許し難い、とまで強い感情でなくても、やるせないものがあるのだろう。「村山が目指したのは谷川名人なのに」「あの対局の相手は羽生じゃない」「村山があの言葉を言った相手はあの人じゃない」「羽生はあんなこと言わない」「あんな対局もともとない」「あの役のモデルになった人はあんなにひどいキャラじゃない」あとはなんだろうな、「師匠との関係が薄すぎる」「奨励会に入れなくて一年を棒に振ったくだりがない」とかだろうか。私も師匠との犬の親子場面や、本の原作者と会った時の「ほっぺた触ってもらい」て言うところは好きですが、でも映画の中でのリリーさんと松ケンさんの会話や雰囲気は、原作を読んだ時に受けたものととても近いと思いました。あと関西人じゃない人の大阪弁は絶対変だからやめろとかいうのも聞きましたが、わたしゃ東北人なので変かどうかわかりませんでした。はい

でも、そんなふうに将棋を愛している訳ではない人間にとっては、この映画はとても面白い、観てよかったと思える映画でした。いつもいつも「長いってだけで観る気しなくなる」「この映画、あそことここカットして1時間半にしたらもっと面白いんじゃないの」ばかり思う人間ですが、今回は2時間があっという間だった。終わるのが惜しかった。

松ケンさんがこの役をやるために20㎏太ったというのは有名な話ですし、東出さんが羽生さんにソックリと言われているのもよく聞きます。勿論、実際に居る人を演じるのであればその人の外見や佇まい、仕草や喋り方を身に付けて演じるのは当然でしょうが、松ケンさんが「痩せていては出来ない役だから太った」と言っているのを聞いたことがあって、彼の言ってることがよくわかった(気がした)。別に見た目を瓜二つにしないといけないからというんでなく、あの体型だからこそ出てくるものがあって、それを手にするために太ったんだよね。そしてまたいくら似せても、本物そのものにはなれないに決まっている。勿論、女の子をナンパしまくる村山とか、「はぁ~かったるい~、さっさと終わらせて帰ろっと」と発言する羽生とかにしたらそりゃ偽物すぎて論外ですが、物真似がすごくうまければいいというものでもない。何言ってんだかわからなくなってきましたが

なんかね、映画を観ていて、本物の村山さんと羽生さん、松ケンさんと東出さん、それから「松ケンさんと東出さんが演じている村山さんと羽生さん」の三人の人間が存在している感じがしたのです。その三人目が「フィクションである、聖の青春の映画」の主人公(たち)であって、彼らの言動や感じ方やその表し方が、本物の村山さん羽生さんと違っていても、それは別にそれでいいと言いますか。どんどん訳わからなくなってますが

だからつまり、本物に結構似ていてそれはすごいし、そしてまた本物と違う言動を取ることもあるけど「そういう人なんだ」と納得できました。

とにかく村山聖が良かった。ちらちら窺い見ながら「誰も話しかけてくれなかった」とぐちる可愛らしさよ。なんたってあの口の聞きよう。辛辣で残酷で容赦がないんだけど、でも、「相手を傷つけてバカにして笑ってやろう」て気持ちが全くないのがわかるので、そんなにイヤな奴とは映らないです。そめやしょうたの時なんか、自分も同じくらい苦しんでるのが伝わってきたし。えもとときおの時はただ笑ったけど(笑)あの酒場でのやりとりや車にゲーされた時も面白かったけど、村山とえもとが試合していて、村山の「強いな…」という呟きにえもとが顔を上げると、村山は隣の羽生の盤面をじっと見ていたという。あそこ笑った。ひどすぎる。

うん、時々、本気でというか素で笑うシーンがあった。笑いを狙った訳ではないのに笑える。今のところとか、「こういう、若い女が借りるような部屋を借りてみたかったんです」「村山君、無理だろう」「大丈夫ですよ」「いやダメだろう」ムッとして「部屋の方が僕に合わせてきます」挙句、おしゃれな部屋がダンボールで埋まってる中で牛丼食ってゲップしてるところとか、店主と羽生のサインとか。

そしてそめやしょうたやえもととの揉め事が起こるたびに間に入って「まあまあまあ」となだめる人たちもいて、大阪ではリリーさん、東京に出てからはやすだけい。そしてつついみちたか。それぞれの場所で村山に引っ張りまわされて苦労させられて酷い目に遭わされながらなんかほっとけなくて村山聖の面倒をみていた人々が、最後に村山と羽生の一騎打ちを全員で集まって見ている図が、すごくよかったです。ジンときた。

そして羽生さんについて。

松ケンさんや東出さん本人が「ヒロイン」とか「ラブストーリー」とか「純愛」とか言っていて、これは腐った女の財布をゆるめようという作戦なんだろうか?こっちとしては「え~ッそうなの~へへへ」と「公式がそういうことは言わないで欲しいんだけど」(渋い口元)と両方ありました。煽られればなんでもかんでも煽られるほどこちとら単純ではない。

でも、羽生さんに対する村山の憧れの大きさや強さ、アプローチの可愛らしさにもうあちこちかゆくなった。「羽生さんに勝つことは20勝分の価値があるんです。あなたに勝っても1です。1!」あとこっそり羽生の後を尾けるシーン。近すぎるよ!ばれるに決まってるよ!案の定不審なものを感じ振り返る羽生、目が合ってちょっとうろうろする村山。笑顔で会釈し返して去ってゆくかっちょいい後ろ姿。何がしたかったの村山。そうしないでいられなかったのかな?あととにかく姿が良かったなあ羽生。指や手や扇子の動かし方がいちいち良かった。負ける時に将棋盤の角っこを押さえて「負けました」て言う姿も良かった。戦いの最中苦しみまくってる姿も良かった。

こっそり酒宴を抜け出して、便所の前で羽生を張り込んでる村山、出て来て鉢合わせして慌てるとこ、ああーーー可愛い。ジタバタした。その後の居酒屋のシーンは、私はすごく好きだ。最初の頃言ったけど、もちろん、現実の羽生さんはあんなこと言いません。それはわかってるけど、ああ言ってもらった村山が、どれだけ嬉しいか想像すると、良かったなあ村山さん、ありがとう羽生さん、と思う。あのシーンを、最後の対局の時にまた出すというの、どうかなあ、一度きりの方がいいんじゃないかなと思いましたが、でも、村山があの時の羽生の言葉を思いながら戦ってんだよなというのがわかるし、一回目は視点が固定されて横からただ見てるんだったのが、回想ではそれぞれの顔のアップになっていて、それぞれの意思と感情に視点が合ってるのもわかるんで、まあいいかな。あの「わたしは今日あなたに負けて死にたいほど悔しい」の顔の良さ。「いつか一緒に行きましょう」の声の静かさ、温かさ。嬉しくて嬉しくてうつむいて言葉を噛みしめてから顔を上げて「はい」という村山の表情よ。久々に、なにかを観ていて「至福」というものを感じました。

そうそう、時々唐突に大阪の食べ物屋とかスーパーマーケットとか駅前の女子高生とか出てきましたが、あれは村山の、平凡で明るく健康的な暮らしというものへの憧憬なんでしょうかね。後で一回大阪に帰って来た時あのおばちゃんが働いてる店があったし。古本屋の娘可愛かったね。なんか手ひどく裏切られる(村山が居ないと思って「なにあのデブオタク。少女漫画好きってキモイんだけど」とかクソミソ言ってるのを聞いてしまうとか)あるのかなあ、いやだなと思いましたがそういう事はなくてよかった。マクロスAKIRAといたキス好きか。ジョジョは読まなかったのか村山。「ジョジョですか。嫌いなんですよね。人が捻じ曲がってるし」

あと白鳥が二羽で飛んでるシーン、あれは羽生と村山のことなんでしょうね。巨人の星の、マウンド上でトラとライオンが戦う比喩と同じかしら。でも、単に敵同士というのでなく、競い合いながらどんどん深く潜っていく相棒同士でもあるので、やっぱり白鳥二羽なのであってトラとライオンとか龍と虎ではないんですね。犬と猿とかね。ハブとマングースとか。しつこい。

あの最後の戦いで、時間切れが近くなって村山が勝ってたのにうっかりしてダメな手を指してしまう。その時の2人の顔がなんともいえなかった。村山は悔しいのと茫然としてるのとこんな形で終わるなんて、という顔で、羽生さんがねえ、必死で平静なふうに抑えてるんだけど泣いてるんだよ。これまた本物の羽生さんが絶対しないことなんですが、居酒屋のシーン同様、ありがとうね羽生さんと言いたくなる。何にかというとやっぱり村山と一緒に最後まで潜ってくれてありがとうですかね。羽生さんてこれまでの試合で、相手が「負けました」と言い自分が勝って終わった後、相手に対して「あそこのあの手でひやっとしました」とか必ず誉めるコメントをしていた。でも、最後の戦いの後は、ただひたすら嗚咽を堪えて黙っているっていうのが、なんとも言えなかった。

2人共和服のかっこいいこと。何だったらレジャー施設にでも慰安旅行へ行きなさいよ。お揃いの浴衣着てさ、卓球でもしなさいよ。運動は無理か村山さん。じゃあボーリングでもしなさいよ。東出さんの羽生さんは背が高いからつんつるてんで脚むき出しで、松ケンさんの村山さんはぱっつんぱっつんでバカボンみたいで、2人並んだらとってもラブリーだと思うよ。夕食はバイキングでエビチリやローストビーフ食ってマグロの解体ショー見てチョコレートファウンテン楽しんでちょうだいよ。で一緒に温泉入って休憩室にある将棋指して、だんだん真面目になってきて血を見る戦いに。監督さんスピンオフ作品として撮ってちょうだい。『聖のラドン温泉』とかで。グッド。

村山さんが亡くなる時、薄れゆく意識で棋譜をそらんじて最後にとあるところで終わるというのが有名な話ですが、そこまでドラマチックにやらないのが良かった。本当に、彼が死ぬということについてはあっさりなんですよ。誰も泣いてない。リリーさんは優しく温かくねぎらってやり、えもとときおはただ呆けたように立ち尽くし(あの姿が本当に良かった)羽生さんは誰より先に顔を見に来て、すぐに試合に戻り、今日も戦い続ける。彼の分まで。そしてそめやしょうたはふと、将棋を愛してやまなかった村山の魂を見かけ、自分の仕事へ戻る。あのあっさり風味がすごく良かった。

原作を読んだ時にね、村山さん、その棋譜をそらんじる前に、とあるアニメの主人公になりきってセリフを言ってて、意識が戻って「あれっ今僕どうしたんだろう」って言うんですけど、何のアニメだったのかなあ、と気になったの。映画で何か洞窟がどうとか勇者がどうとか言ってましたが、あれは本当の村山さんが言ってたことだったのかな。それとも映画のスタッフが考えた何かのアニメかしら。なんだろうなあ。ガンダムではないようだが。時代からいってなんだろう。ガリアンとかモスピーダとか?(笑)でもね村山さん、それってすごく恥ずかしいぞと思ったの。私もね、全身麻酔で手術するようなことになって、麻酔が切れるころにうなされながら「吾郎ちゃん、下がってて」だの「やれやれだぜ。てめーは俺が倒す」だのって口走ったら、看護婦さんとかお医者さんに失笑されて「なんだこのオタクババアは」って思われるんだろうなあ、嫌だなあ、だから健康には気をつけて全身麻酔かけないといけない手術なんかしなくてすむようにしようって思ってたんだよ村山さん。原作読んでてそこで泣き笑いしたんだよ。ダメじゃないか村山さん。何のアニメよ。教えてよ。

いや長くなった。まだ言いたいことがあるように思いますが思い出したらまた書きます。

また観に行きたいけどもう無理かなあ。円盤出たら買おうかな。

良かったら観に行って下さい。お薦めします。