GRJ日記

サイトの日記代わりです。やや古いマンガやや古いアニメやや古い特撮(略)大好き。

邪眼は月輪に飛ぶ

藤田和日郎先生の7話完結の短編です。
私はからくりサーカスの後は藤田先生の作品を読んでいません。月光条例もなんとか亭滅すべしも読んでない。このお話も知らなかった。サンデーで描いたのかな?そうだろうね…
今回読んでみて、うしおととらのHUMMER編の辺りを思い出しました。正体不明の、いにしえの妖に近代兵器で挑む感じ。武器の強さよりも肝心なのは戦いを挑む心意気、心の強さの方だ、という感じ。
戦いの場に集ってくる人々にはそれぞれ囚われている過去があり、因縁があり、そして各々がそれらを乗り越えて手を携え、明日を呼び込む。
こう書くとよくあるパターンですが、それらの描き方はさすがうまいし、藤田先生の作品の絶対条件である、痛いような熱さというものは、ひしひしと感じられました。妻と、娘の振るう、一瞬呪いの力を堰き止める能力が良い。またそれを振るった時の妻の切なさよ。結局、妻の気持ちについては、回想でも推察でも出てこなくて、どんな気持ちで居たのかが掛かれないんだけど、それが逆に良かったな。
そして敵の造型が素晴らしい。藤田先生の作り出した中ボス、ラスボスの数々に引けをとらない素晴らしさ。「こいつなら、見ただけで対象を殺すくらい、しかねない」と納得のいく絵柄でした。
白面の者はどうやって生まれたのかの説明がありましたが、このフクロウには無い。でもそれは無くてもいいと思う。人間には理解しようのない脅威があるってのは当たり前のことだし。そして、このフクロウには、白面の者のような悪意、邪悪さが無いのです。あーでも、一挙にスナイパーを倒した時に、「人間であったら笑っただろう」みたいな表現があったな。多少は自分が殺す生き物に対しての嘲笑があるのかな。無い方がすっきりしていいと思うけどな。
と勝手なことを言いつつ脱線してきましたが、何が言いたいかというと、今回の敵は邪悪さとか憎しみなどの個性の面がほぼ無く、純粋な「理不尽な一方的圧倒的殺戮者」の存在として描かれているので、恐ろしさや力の巨大さがすんなり腑に落ちるという話でした。最後の最後にほんの僅かに心情が明かされるシーンがあって、絵も怖く、そして可哀想だった。彼は沢山の人間を殺したけれども、彼はそういう天災のような存在なんだから、仕方がないとも思う。まあ、だったら、彼に殺されてもいいのかと訊かれると嫌ですけどね。
時々出てくる山ことばがうまく効果を上げていました。時々孤高のスナイパーの話を耳にしますが(人食い熊を仕留めた人とか、戦争中の兵士とか)何かを狙って撃つ、射貫く、という姿にも、独特のストイックさを感じますね。
ひとつ、苦言を呈するなら、あの娘のキャラクターが、いつもの「麻子ちゃんキャラ」すぎて、もうちょっと別の性格にして欲しかったなあという点です。もっと、関守日輪みたいなふうでも良かったんではないか。

いやあでも久々に胸アツの世界に浸れました。どうもありがとう。